夕暮れ時に、イタリアのジェノバ駅を発車した国際列車は、コートダジュールの長い夜の闇を走り抜け、明け方の薄明にしだいに浮かび上がるスペイン・カタロニア地方の赤茶けた岩肌を縫って、午前7時近く、バルセロナ駅に静かに滑り込んだ。
雪が、舞っていた。
大滝三千夫は、五十恰好のトレドに住むというスペイン人夫妻と、同じコンパートメントに乗り合わせていた。
小さく背伸びして車窓に目をやったスペイン人妻が、満面に喜色をたたえ、まだ目の覚めきらない夫の肩をつついた。
そして二人で、大きなジェスチャーをまじえ、子供のようにはしゃいでいる。
窓の外を、白い雪が舞っているからだ。
一月とはいえ、温暖なカタロニア地方では、近年にないことという。
三千夫は、駅構内のカフェーで軽い朝食をとって、雪のちらつくバルセロナの街へ出た。
駅近くに見かけた、小さなホテルでチェックインを済ませ、市内観光地図を頼りに、当座の目当てである『ピカソ美術館
途中、1492年にジパングを目指して出航した、サンタ・マリア号の実物大模型だそうな『コロンブスの船』が繋がれている海岸で、人だかりがしている。
気にはなったが、美術館は午前中で閉まると聞いていた。
先を急いだ。
ピカソ美術館は規模こそ小さいが、ピカソの若い時代の作品を中心に充実していた。
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